SPECIAL FEATURE
古今東西、多種多様な装飾が服飾・建築・実用品などに施されてきたモチーフ。装飾の模様にはそれぞれ象徴するものがあり、人々の思いが込められています。この度は、私たちの文化と暮らしを彩る装飾美術のモチーフをご紹介いたします。
植物は衣食住、医療など、あらゆる面で人の生活と密接に関わっているため、モチーフとしても古来より装飾に取り入れられてきました。
アカンサスはアザミに似た深い切れ込みのある葉が特徴的で、和名ではハアザミと呼ばれます。日本ではあまり馴染みのない植物ですが、ヨーロッパでは古くから普遍的に用いられてきた意匠です。古代ギリシャ・ローマ以来、柱頭装飾として定着し、建築物や家具、工芸品、テキスタイルなど様々なものにデザインされています。近代デザインの父、ウィリアム・モリスも好んで図案化し、壁紙のデザインに取り入れました。現代では、日本の一万円札や賞状の縁に見ることができます。葉は知恵と技芸を象徴し、ギリシャの国花にもなっています。
ギリシャ語でキリストを示す文の頭文字が「魚(イクトゥス)」になるため、初期キリスト教美術では魚がキリストの象徴として多用されています。また、中国では「魚」は「余」と同じ発音のため、ゆとりある暮らしに通じ、吉祥文様として使用されます。同じモチーフでも、込められた意味、象徴するものは文化によって異なります。
一方、同じ模様でもモチーフが異なることもあります。「ヘリンボーン(ニシンの骨)」は現代でも敷石やツイードのセーターなどの柄に見ることができますが、同様の模様は日本では「杉綾紋」と呼ばれ、その名からわかるように、杉の葉をモチーフとしています。その他にも英語圏で「ハウンドトゥース(犬の歯)」と呼ばれる模様は、日本では「千鳥格子」という名がつけられています。
世界中の神話や伝説に登場する龍(竜)はヨーロッパでは悪魔的なイメージと聖性を併せ持つモチーフです。キリスト教的世界観では異教の象徴であり邪悪な存在として用いられることが多いですが、ウェールズの国章「赤い竜(ア・ドライグ・ゴッホ)」や北欧のヴァイキング船の舳先、教会の棟飾りなどにみられるように、保護と幸運を象徴する守護者でもあります。
中国をはじめとする東アジアでは、龍は霊獣として崇められ、権威の象徴です。日本では水の神や雨の神としても信仰され、寺社建築に彫刻が施されています。吉祥文様として身近なものの装飾にも多用されてきました。
幾何学模様とは直線や曲線、図形などによって構成された抽象的な模様です。縦横斜めに連続あるいは放射状に無限に広がり、繰り返されることで生じる連続性のおもしろさがあります。抽象的な幾何学図形を繰り返す連続模様は世界各地でみられ、アラベスクはイスラムの代表的な模様でモスクや宮殿の建築装飾、カーペットや陶磁器などに用いられています。
幾何学模様はヨーロッパ各地で最も早くから出現していた模様でもあり、青銅器時代には多種多様な幾何学模様が登場しています。金属器に施された模様には装飾以外にも呪術的な意味が込められていたといわれています。
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