SPECIAL FEATURE

風刺画

人々が感じた不平不満や批判は風刺画として表現され世間を騒がせてきました。風刺の対象には人間の心、周囲の仲間や社会、さらに一国の最高権力者までさまざまなものがあります。近代以降になると印刷技術の進化によって政治風刺の手段として用いられました。新聞や雑誌のようなジャーナリズムの中に使用され、人々の間にニュースとともに広まっていきました。今回は近代以降の3つのテーマに分けた風刺画を紹介いたします。

人間以外に置き換えて

その痛烈な描写のために風刺画家の中には罰金や懲役刑を受ける者、検閲で出版不可になることもありました。また風刺画は多くの人々の心を動かすことで事件や事変になりうる力を持っていました。それらは現代でも同じです。風刺画の手法の一つに、その人物のもつ特徴を極端に強調するもの、あるいは動物や事物を使用または組み合わせるものがあります。ここではそのような風刺画を集めました。

Martin Luther(c.1483 ‐ 1546)の行う宗教改革に反するものたちを批判嘲笑する広告。Thomas Murner は雄猫、Hieron Emser は羊、教皇Leo 10世はライオン、Johannes Eck は豚、 Jakob Lemp は犬に。(1521年ごろ)

カトリック側を批判。狼の僧侶が羊の告白を聞き、信者の告白が悪用されていることを表す。16世紀。

Потёмкин(Potemkin)(c.1739 – 91)が乗っているのは熊になっているロシアの女帝Екатерина (Catherine)2世(c.1729 – 1796)。

豹に描かれたフランス王妃Marie Antoinette(c.1755 - 93)。

雌鶏姿のMarie Antoinette。「オーストリア娼婦(雌鶏)」と題されている。La pouleは雌鶏と娼婦の両方の意味を持つ。議会に制定された憲法を受け入れたくない王室の態度を批判。「私は金貨を簡単に扱えるけど、憲法のことは鵜呑み(受け入れ)られない。」(1791年)

名もなき紳士は豚に。”あなたのベーコンの守り方”18世紀。

犬はRoger Curtis(c.1746 – 1816)。CurtisをAdmiral Lord Howe (c.1726-99)の犬として描写している。

フランス皇帝Napoléon1世(c.1769-1821)による新フランス窯で次々に作られる焼きたての王たち。

Napoléonはスズメバチになって、プレーリードッグのThomas Jefferson (c.1743 – 1826) を刺している。

若き英首相William Pitt(c.1759-1806)の火が野党のメンバーらに囲まれている。

Louis Phillipe1世(c.1773-1850)を梨に見立て、その変態を4つの画像で表し、王の効力と人気の劣化を強調している。

アメリカの18代大統領Ulysses S Grant (c.1822-85)がブルドッグに。彼の犬小屋は犬の議員たちに守られている。背の高い男性は16代大統領のAbraham Lincoln (c.1809-65)。

英首相Benjamin Disraeli(c.1804‐81)は月に、それに吠える犬たちは彼の同僚ら。(1875年)

”奴隷の群衆”として、政治家たちを豚の群に例えている。

イギリスの自然科学者Charles Darwin(c.1809 - 82)はオランウータンに。「自然選択説」を唱えた。(1861年)

Bismarck(c.1815 - 98)が海のモンスターに。

ロシア皇帝Николай(Nicholas)2世(c.1868 - 1918)。ロシアの地にしっかり根付き、なかなか抜けなかった、カブに描かれている。(1920年)

具現化

プロパガンダの役割を持った風刺には国や地域が「形」で表現されるようになりました。「形」になった自分たちと敵を絵画の中で争わせ、善悪の表現をつけるなどして各々の目的のために風刺画を利用しました。自分たちと敵の各々の文化やそのイメージを誇張させて自分たちに有利に事を運ばせるのが狙いでした。

左の男性ジョン・ブルはイギリスの、右の男性はアンクル・サムというアメリカの擬人化である。

スポーツ大会で。アメリカが「ねえ、君が私に勝てる試合はあるのかな？」とイギリスに話している。

アメリカの領土拡大。新しい服を手に入れた巨大なアメリカのズボンには、テキサス州などの地域の名前がラベルされている。ドア近くの3人の男性たち「反膨張政策」の薬の瓶を持っている。

米西戦争で、アメリカはキューバからスペインを追い出している。

フランスはマリアンヌと呼ばれる女性に象徴される。普仏戦争で負け、課せられた賠償金をほうきで掃いている。

第一次世界大戦時の、フランス側の風刺画。

Adolf Hitler(c.1889 - 1945)はロシアの熊に捕まれている。

イギリスはライオンに。またロシアの熊は「お前を侵略するぞ。」と清国に言っている。1858年の天津条約において。

1830年のロンドン会議。縛り上げられている犬はオランダ、右の七面鳥はベルギー。人間の女性のポーランドは白熊はロシアのMatuszewicに踏みつぶされている。キツネはイギリスのPalmerston、馬はプロイセンの、サルはオーストリアのEsterhasy。

アメリカ南北戦争。北軍を抜けたサウスカロライナ州はロバに。(1861年)

アメリカの共和党のシンボルは「神聖な」象。着飾っている。(1884年)

イギリス(蜘蛛)がアメリカ(後方の最左)などを縛り付けながらフランスと協定を結び、ヨーロッパへ勢力を拡大していることをドイツ(鷲)が見ている。(1915年)

中国は豚に。ロシア、フランス、イギリスが蜂に。(1894年)

欧州各国が犬に。第一次世界大戦の風刺画。みな大きさも種類も異なる犬種である。作者はイタリア人で、イタリアは左上のパイプをくわえた犬である。

うさぎのモロッコは列強に引っ張られている。(1903年)

風刺画と地図

私たちは地図によって場所だけでなく状況や情勢も調べられます。正確であることが条件の地図と風刺とを組み合わせることで、風刺の説得力を増加させることができます。ここで多く紹介する19世紀や20世紀は国際交流が盛んになりました。風刺画でも異文化の衝突や帝国主義と植民地の関係などを、地図を使って表現しています。